『イースタン・プロミス』いよいよ明日公開です。バイオレンスが容赦ないので万人におすすめするつもりはありませんが、重厚なドラマをご覧になりたい方は是非。
Cut 6月号掲載の佐藤久理子さんのレビューが、ヴィゴ ファンの心に直球ど真ん中でしたので、引用させていただきます。
この黄金コンビに世界の果てまで付いていこう。
監督から本作の話を持ちかけられたとき、ヴィゴ・モーテンセンは「イエス」と答える前にまず、徹底的にロシアン・マフィアについてリサーチしたそうだ。ロシアン・タトゥーの本を見つけ、その意味と歴史を把握し、自ら監督にも本を送り、自分のなかである程度メドがついてから役を引き受けたのだという。こうしたマニアックな俳優は他にもいるが、彼の素晴らしさはそれが自分に酔ったかのような大げさな表現に繋がらない点だろう。その演技はむしろ静のなかにこそ凄みを滲ませ、リアリティを発揮する。
自分を決して見せないロシア人マフィアのニコライは、ボスのでき損ないの息子の用心棒として仕え、顔色ひとつ変えずに汚い仕事をなんでもこなす。そんな彼の前にロシア人売春婦の出産に立ち会い、事件に巻き込まれることになる助産婦が現れる。アイデンティティが不確かなニコライという人物を、不確かなまま表現するヴィゴの抑制された演技には、人間の怖いほどの複雑さが詰まっている。そしていうまでもなくその功労は、じっくりと時をかけて熟成する俳優の演技を理解し、そのディテールをスクリーンに写し取る監督の手腕があってこそ、生きている。彼らは人間の大いなる闇──曖昧さを描くことを恐れない。両者が最強のコンビである理由は、こんなところにあるのだ。
(text by 佐藤久理子@Cut)